はじめに

        最近、激しく心を揺さぶられるニュースがあった。山口県周防大島町に住む2歳の子が行方不明になって3日、警察が必死に捜索するも見つからなかったところ、78歳のボランティアさんが、大分から一人で軽自動車を運転して現地に入り、わずか30分で見つけ出し、両親のもとに届けたというものだ。報道されるこの人の半生や人生観を知るにつけ、このような人格者が、この世に、いきいきと暮らしておられることを知って、感激した。行為の美しさだけでなく、ボランティアとしての熟練、心構えもすばらしい。近頃、社会のリーダーたちの不正や潔さに欠ける行動を耳にすることが多かっただけに、このような、無私の奉仕精神を持つ、尊敬できる高齢者が、日頃目立たないけれども、まだ居られるのだと知って、うれしかった。

       化学の研究者を志してから60年近く、すでに大学を定年退職し、人生の終わり近くに差し掛かった今頃になっても、「化学は果たしてサイエンスなのだろうか」、「化学は世の中に必要とされているのだろうか」、「世間の人たちは化学にどれだけの関心と知識をもっているのだろうか」「化学はどこへ行くのだろうか」、「若い人たちに、私の考える化学を伝えるにはどうしたらよいのか」などと折々考える。それが昂じて、些細なことから大仰と思われるかもしれない話題まで、あるいは時に全く化学に関係ないと思われることまで、日頃考えていることを、目立たなくてもよいので、自由に書き綴ってみたいという思いが次第に募ってきた。しかし、体系的に突き詰めて考えているわけでもないので、一冊の本に纏めることなどとてもできそうにない。それで、ささやかなブログを始めたいと思い立った次第である。この意欲がいつまで続くか分からないが、先のスーパーボランティアさんにも刺激されて、後期高齢者の仲間入りをした今、まずは一歩を踏み出すことにする。